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もふもふした長い耳。丸い目と短い鼻のしわくちゃでユーモラスな表情。茶色い毛が、その脂肪でだぶついた体を覆っている。
その生き物に恐る恐る近寄ると、足くくり罠にかかり怪我をしている太めの中型犬だった。
「ひどい……待ってて、今はずしてあげる」
トックルから降りるアマネ。
「おい、近寄るんじゃねぇ」
「え、誰?」
アマネは辺りを見回した。だが、そこに人の気配は無い……。
空耳?
アマネは犬の方へ向き直り、その足を締め付けるワイヤーロープに手をかけようとした。
「それ以上近づくと噛むぜ」
え……ウソ……。
唸り声で威嚇する犬に目を見張るアマネ。
「……君が喋ってる?」
「じゃなきゃ、そっちの鳥が喋るのか?」
アマネの脳裏を以前聞いたショウマの言葉がよぎる……。
『悪魔の姿形にこだわるな。見抜くには相応の経験が必要になってくるだろう』
アマネは警戒し、後ずさった。
自然の中で暮らす利点に、その土地に住む精霊の加護を受け悪魔からの侵入を防ぐ恩恵がある。
そのため悪魔が森に現れたなら、精霊の手に余る代物であろう事が窺い知れた。
でもまてよ……そんなに恐ろしい悪魔がこんな罠にひっかからないよね……。
あるいはそう見せかけた罠? いや、そんなことする必要ないか……。
「ウゥゥゥゥ……」
「ねぇ、君ってなんで喋れるの?」
「犬は喋れねぇ動物だってか? 馬鹿にしてくれるぜ」
「え……そんなつもりじゃ……ごめん……」
犬が後ろ足で顔を掻き出すと、その言葉遣いからは似つかわしくない愛嬌のあるしぐさがアマネのツボにはまった。
「フフフフッ……あ、ごめん。かわいかったから、つい……」
むくれてフンとそっぽをむく犬に、アマネは安心感を抱き始めた。
「そうだ、足の怪我手当てしてあげるよ。その罠はずしていい?」
犬はアマネをジロッと睨んだ。
「お前、密猟者じゃねぇな……かまわねぇが、普通にはずせねぇ作りで俺の力でもちぎれなかった特殊なワイヤーだ。お嬢ちゃんの力じゃ――」
「ハァッ!」
アマネの手から勢いよくブロードソードが振り下ろされ、その刃がワイヤーを捉えるも、わずかに食い込むにとどまった。
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