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犬が感心したように頷く。
「認めるぜ……俺にはわかる。その気合、太刀筋、本物だ。だがな、三トンの岩をも転がす俺の顎でも歯が立たねぇコイツを女子供の力でっておい……」
犬が話し終わる前に、アマネは周辺に幅広く分布する木々を次々と蹴り登り、枝々間近の高所まで到達すると、その木を足で挟み角度をつけた。
「ハァァァァァァァァァァアッ!」
その場を踏み台にして渾身の脚力で急降下するアマネ。
全体重を乗せて加速したブロードソードの剣先がワイヤーロープを捉えると、それをズシャリと切断し、そのまま地面に突き刺さった。
「お゛ぁっ!?」
「よっと」
アマネは剣の上での逆立ち状態から手を離し、地面に足を降ろした。
「エヘヘ、アマネ流ハヤブサ落とし♪」
地面から剣を抜き、得意げな笑みを浮かべるアマネに目を剥いて呆然とする犬。
「足の方は大丈夫?」
「……」
「どうしたの?」
「へへ……どうやら目が曇っちまってたようだな。完全に侮ってたぜ」
犬はトックルの横腹にさげられた鞄に飛び込み、足をバタつかせながら顔を出した。
「俺はパグーってんだ。種族柄その能力を嗅ぎつけた密猟者に追われてる。奴らは俺達を海外に高く売り飛ばす気だ。その罠も奴らの仕業さ」
「能力って……?」
「生まれつき、俺達の種族は近くに悪魔がいたら感知できる能力があってな……人や動物とも話せるから、人間様にはご入用なんだろ。おかげで仲間はみんな散り散りさ」
「そうなんだ……これからどうするの?」
アマネはトックルに乗るとゆっくり歩かせた。
「足に残ったワイヤーも外してぇし、動物病院の処方薬は治りがはぇーだろ?」
……
「あ、ついてくるんだ?」
「おいおい、怪我した子供を置いていく気だったのか?」
「そんなこと……え? 子供って君、何歳なの?」
「三歳だ」
「えぇーーーっ!!」と、思わず大きな声を出すアマネ。
「クァ?」
トックルが不思議そうに振り返る。
「へへ、そういう事だ。ところであんた、まだ名前聞いてなかったな?」
「アマネだけど……」
「よろしくな、相棒っ」
「クァッ! クァッ!」
「相棒は自分だってよ、あいてて……すまねぇが応急処置だけ頼むわ」
今日……すごいスタート切っちゃったな……。
アマネはウエストバッグから包帯と塗り薬を確認すると、トックルを先程の渓流へ向かわせた――。
「ところでよぉ、あんた何の目的で走ってたんだ?」
「それはねぇ――」
水辺まで来ると、アマネはパグーを両手で鞄から降ろし、生い立ちや目的を説明しながらその傷口を手当てした。
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