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「おはよう、アマネ」
テーブルの上で、ヨシノの手によりポットからティーカップへと紅茶が注がれる。
「おはよぅ……」と、パンをかじりながらアマネ。
「……その剣、身に着けながら食事するとこ、お父さんとおんなじね」
「あ、ごめんなさい……」
アマネはブロードソードをベルトから外し、隣の空いた椅子に置いた。
ダメだ、緊張してる。なんとなくだけど、気づいてるんだろうな……。
いつになく静かな朝食は、若干の気まずさを漂わせている。
「どうしたらアマネは、普通の女の子らしく過ごせるのかしらね?」
たぶんそうだ。おまけに耳が痛い……。
「普段大人しいけど、お父さんに似て大胆なところもあるから心配だわ」
アマネが大人しい性格に反して活動的なのは、父親譲りの道義心からであった。
また、律儀な性格も手伝って母の思いを疎かに出来ず、父を追う事との間に生じるジレンマに悩み続けていた――。
何も言い出せないアマネの前に、紅茶の入ったティーカップをしれっと運んでくるヨシノ。
そのどこか意図的とも取れる母の振る舞いから、アマネは卓上へと視線を落とし意を決した。
「お母さん、気づいてると思うけど……この二年間、お父さんの事が頭から離れなくて、今日の為に準備してたんだ……」
静かなリビングにやや重い空気が流れる……。
「アマネ、顔を上げなさい」
アマネが上目遣いをしながらゆっくり顔を上げると、ヨシノも席に着いた。
「今日の為って何のことかしら?」
「新世界労働組合の試験を受けに行くことだよ……」
「……」
「ずっとね……お父さんの事、大丈夫だって自分に言い聞かせてきたけど、本当はすごく不安で……お母さんに試験を反対されても、その気持ちが強くなっていったんだ……」
「そう……じゃあ、これからは私も、そんな気持ちでアマネを応援していけばいいのかしらね?」
……
わかってはいたんだけどな……。
辛そうに俯くアマネを余所に、素知らぬ顔で紅茶を啜るヨシノ。
……
…………
「……少し話しましょうか?」
そう言って、ヨシノはもう一口だけ紅茶を啜ると、ティーカップをテーブルの上に置き、電話機の横に立てかけられた写真立てへと視線を移した。
その見慣れた小さな枠内へと、アマネも視線をつきあわせる。
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