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「それを思い知ったのが、あの日……その子の絶望的な状態を見て、あの人の覚悟を悟ったわ……この先、希望も見えないけど、自分に起こるどんな運命でも受け入れられるなら共に行こうかって……それを聞いて、私は覚悟を決めたの……」
お母さん……。
潤んだ瞳を指先で拭い、ヨシノは続けた。
「あの人の言いたい事はわかるでしょ……私もあなたを守る事で、あの人と一緒に闘ってきたつもり。だから悩んだわ……今回の件で、あなたの立場や思いに親としてどう答えてあげられるのか……」
「……」
会話が途切れ、アマネの中で咀嚼されたヨシノの言葉がショウマの人柄を偲ばせると、アマネはその意味に込み上げるものを抑えながら口を開いた。
「お母さんの言いたい事はわかったよ……お父さんの一人で闘う意思をずっと守ってたんだね……」
アマネをただ静かに見つめるヨシノ。
……
……
……
「ずるいよ……」
俯いて肩を震わすアマネ。
「アマネ、聞いてほしいの……」
「言葉を選んでたってわかるんだ……お母さんが口に出せないくらいお父さん、きっと恐ろしいものと闘ってるんだって……」
「……」
「今、言えるなら何でもっと早く教えてくれなかったの……私だけ何も知らずに、大切なものを失うところだったんだ……」
「そんなことないわ、こうしてあなたが生きている事が、あの人の願いでもあるのよ」
「お母さんは強いよね……私なんか、お母さんを無視していく覚悟も無かったよ……」
アマネによる精一杯の皮肉は、抑えていた娘に対する哀れみと愛おしさを沸き立たせるように、ヨシノの表情を曇らせた。
「……」
嗚咽をこらえるアマネ。
その様子にヨシノが表情を緩め溜息をつくと、やがて諦めたように微笑んで見せた。
「……無駄な抵抗だったわね、本当はこうなる事はわかっていたわ。あなたは芯が強くて優しい子だもの。二年間、お父さんの事で健気に頑張ってたものね」
健気という言葉に、涙で濡れた頬が赤らんだ。
「お父さんの事、頼んでもいいのかしら?」
……
つぶらな瞳を潤ませながら、アマネは小さく頷いた。
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