始動

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言葉とは裏腹に満面の笑みを見せるジェラ――。 彼女を纏うオーラに乱れは無い……。 痛みよりも動揺を隠せないと言った様子で男が口を開く。 「どうして……分かったんです……?」 ジェラは立ち上がりざまアマネ達の方へ向き後ろで手を組んだ。 「だってお兄さん、アマネさんに突き飛ばされても地面から離れなかったじゃないですか~♪」 「……」 レッジが空中でシンから手を離すと同時、アマネはパグーの気を引くよう走り出した。 パグーは判別がついて無い……いつ元に戻るかなんて分からないし、ましてや、シン君を守りながらなんて……。 パグーの周囲を大きく旋回するアマネに、その強者たる視線がゆっくりと向けられる。 ダメだ……迷ってる暇なんて無い……なら……。 蹴り上げられた地面から砂煙が舞った。 それに乗じて、落ちて来るシンの方へと飛ぶアマネ。 「……ごめんねパグー、すぐに戻ってくるよ」 砂埃を浴び、目を覆うパグーの上空でシンが抱き留められる。 それは上手くいったかの様に見えた。 が――。 「こっちも忘れちゃいないかい?」 アマネが振り向く間もなく、背中に激痛が走る。 異次元空間から空中に身を出し、蹴りを決めるレッジ。 衝撃でシンを抱えたまま、その体が速度を付け下降していく……。 「クリーンヒットですね~♪」と、嬉しそうなジェラを余所に、先程まで地に手をついたままだった男は折れた手首を庇いながら神妙に様子を窺っている。 攻撃を受ける前、背後に突然オーラを感じた……ひょっとして、体ごと瞬時に移動できる能力……だとしたら、シン君を抱えながら逃げる事なんて……どうしたらいいの……。 シンの頭部を庇いながら、自らの体を盾に地面へと叩きつけられると、アマネは転がる体を片手で受け身を取りながら支えた。 「……洞察力より、経験といったところでしょうか……魔力はこの手の平からしか出していなかったのですがね……」と、ジェラに賛辞を贈る男。 だが、そのジェラは何かを考え込む様に俯いている……。 「……どうかされましたか?」 「えっとぉ……攻撃する意思が無いと魔力の具現化って難しいと思うんですよぉ、でもぉ、ジェラがここに来た時からアマネさん、誰にも攻撃されてないんですよね~……」 「……」 ジェラがチラと男に目をやる。 「……何か?」 「……お兄さんが足の裏から地面に溜めてる魔力ですがぁ、それでアマネさんをもっと追い込んだ方がいいのかと思いまして~……」
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