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だけど心が弱った時にはいつも思い知らされてしまう。
人に嘘をつき、人を欺き、自分の意志とは関係のない行為を散々行って来た私はいつか罰が当たるんじゃないかって──。
(兵馬くん…)
彼はもうひとりの私だ。彼も私と同じように智広に手駒にされたひとり。
純粋で繊細な心の持ち主だった彼は智広からの呪縛に耐えられずに病を患った。幸か不幸かそのお蔭で彼は智広から見放された。
そんな彼のことを心の奥底で(羨ましい)と思ってしまった自分に驚いた。
「咲ちゃん」
「!」
いつの間にかシャワーを浴び終えた智広が横になっている私の隣に腰かけていた。
「智広くん…」
「もういいよ。咲ちゃんもシャワー浴びておいでよ」
「…うん」
上体を起こして智広と同じ目線になった。そのまま少しジッと智広を見つめる。
「どうしたの?」
「ねぇ…智広くん。もし…もしもこのまま子どもが出来なかったらどうする?」
「……」
何故突然こんなことを言ったのか分からない。
「も、もしもの話よ、もしもわた──っ!」
言葉半分にいきなりその場に押し倒された。
「何を言っているのか分からないよ、咲ちゃん」
「ち、智広く…」
「妊娠するに決まっているだろう?子ども、出来るに決まっているよ?なんでそんなことを言うのかな」
「……」
「咲ちゃん、今までだって僕の言う通りにやって来たじゃない。咲ちゃんは出来る子なんだよ」
「ち、智広……い、痛…」
抑えつけられている手首がギリギリと酷く痛んだ。
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