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私と智広の運命が変わったのは私が19歳、智広が15歳の時だった。
智広の父親が亡くなってそれまで明朗活発で表情がくるくる変わる年相応の男の子だった智広が一瞬にして人が変わってしまった。
『──咲ちゃん、俺…これからゲームを始めるよ』
あの日、私にそういった智広の顔を、その瞳に宿る憎悪の炎を見たことを私は忘れない。忘れられる訳がなかった
智広に好意を抱いていた私は智広の望むことを全て叶えてあげたいと思うようになった。
『咲ちゃん、UTSUNOMIYAに就職してよ』そう言われたら私はUTSUNOMIYAに就職した。
『咲ちゃん、社長の娘婿を誘惑してよ』そう言われたら私は麗華さんの夫を誘惑した。
『咲ちゃん、UTSUNOMIYAを辞めて整形して顔を変えてよ』そう言われたら私は仕事を辞め顔を作り替えた。
『咲ちゃん、宇都宮家に家政婦として潜入してよ』そう言われたら私は宇都宮家に家政婦として潜り込んだ。
ただひたすらに智広のためだけに行動して来た。
時折私を抱く智広の温もりだけは真実なのだと何度も心に言い訊かせて私は智広が歩むべき修羅の道に付き添い続けた。
全ては智広がUTSUNOMIYAを手に入れて宇都宮家から宇都宮の血族を排除するまで。
智広の長年の復讐劇が終わればその先は平穏な日々が訪れるものだと思っていた。
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