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「僕にはもう咲ちゃんしかしないんだからそんなこと、言わないでくれるかな」
「ご、ごめん、言わない、もう言わないから!」
「……」
「智…」
「ふふっ、おいたは程々にね」
「…っ」
智広はにっこりとその美しい顔を綻ばせた。
「さぁ、シャワー浴びておいで」
「……うん」
──きっと静流さんは私を憎んでいるだろう。
あんなにも慕い続けていた智広を奪った女が私だと知ったら、それはとても憎らしく思うだろう。
(だけどね、静流さん)
私にしてみれば智広から逃れられたあなたが羨ましい。自由に、何処へでも行けるあなたがとても羨ましいの。
(私はもう……何処にも行けないから)
確かに自分で選んで歩んで来た道だったけれど──……
(何処で間違えてしまったのだろう)
ザァァァァァァー
温かいお湯が容赦なく私の体を打ち付ける。
「…ふっ…うっ…」
胸に去来する哀しみの正体は一体なんだろう。水飛沫で涙は瞬く間に流され、嗚咽もシャワーの音で掻き消される。
(智広……智広…!)
今更ながら私が愛した智広という男はもうとっくにこの世から消えていなくなっているのだと気が付いてしまったのだった──。
Silentkiller 番外編(終)
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