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この恋は無制限
次の日。
蔑まれた学園生活を日々過ごしている俺は、生徒の群れから目を盗むように、朝のホームルームをギリギリで登校する。
肌の異国感が奇異な眼差しで見られているという考えは、被害妄想かもしれない。
とはいえ、昨日は教室で一発ぶん殴られて注目の的になった。
そんな大騒動があったから、なるべく学校の連中から溢れ出るヘイトを朝っぱらから耳へ入れて、鼓膜を傷付けたくない。
ある程度、生徒の一団が教室へ足を運び廊下に人の気配がなくなる。
俺は悠々と階段を上がって廊下を我が物顔で歩いて行くと、一人立ちはだかるヤツがいた。
風紀委員長にして悪役令嬢の永流だ。
大方、ホームルームの始まる直前まで校内の風紀に気を配っていたのだろう。
律儀で真面目というか、頭が硬いというかなんとやらだ。
朝の始業にあたり静まりかえる廊下。
気まずそうに対面する俺と永流。
昨日のメールのこともあり、俺が悪態すらも思いつかず視線を泳がせながら黙っていると、向こうから何かを言おうと唇を震わせていた。
「あ、あの……あ、あり――――」
やかましい電子の鐘が鳴って、彼女の出かかった言葉をさらっていった。
チャイムが過ぎ去り沈黙が再来した後に見つめ合う俺たち。
ホームルームへの出席が互いの脳裏に過ぎったところで、同じタイミングで歩き出す。
すれ違う俺と永流。
今振り向けばアイツも振り向いて、思いを通じ合わせることができるのではないか?
そんなメルヘンな思考に陥りそうなほど、この瞬間はセンチメンタルだ。
不思議な力に引かれるように俺は振り向く。
そこには、お嬢様の小さな背中が遠ざかって行く光景しかなかった。
自分が滑稽で笑えてくる。
なんで何も言わずに思いが通じるなんて推し量れるんだ。
ここにいる俺とアイツは、ガキだった頃の秘密を持った関係じゃないんだ。
すぐ様きびすを返し、これまでの全てを振り切るように、教室への歩みを早めた。
だが、俺は知らなかった。
いや、今の瞬間を、これからも知ることはないかもしれない。
視線を戻して教室へ歩き出した後、ほんの寸分の間で永流も振り向き、俺の背中を見送っていたことを――――…………。
FIN――――――――とはならなかった。
実はこの数分くらいに永流は慌ててホームルーム中の教室へ飛び込んだ。
そりゃそうだ。
俺と同じ教室へ行かなきゃならない永流が、何故か廊下ですれ違って教室と反対の方向へ歩いていった。
アイツ、俺と一緒に教室まで歩くのが嫌で、ホームルームへ足を運ぶタイミングを遅らせる為に、俺を追い越したに違いない。
この見栄っ張りの悪役令嬢め!
アイツとなんか、ラブコメが始まる訳ねぇぇぇえええだろぉぉぉおおお!!!
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