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ストーカー?
イイジマ家具の後継者は誰かというお家争いで、世間が注目していると意外な形で話はまとまる。
前社長の死から数年、永流の母親が再婚。
この再婚相手が良からぬ噂の人物で、実の父親がいた時から母親とただならぬ関係にあったらしい。
再婚相手は前社長の秘書。
大人の世界で言う不倫なのかはわからない。
でも永流の母親と再婚すると、そのまま社長の椅子に座ることになった。
最初は永流も義父と仲良くしていたが、父親と母親の間に男の子が産まれると、家庭環境が変わる。
義父の血のつながりがある長男で、いずれ家長を継ぐ者だ。
ゆえに義父と母親は男である永流の弟を、会社の後継者として溺愛。
永流は家で居場所を無くす。
弟の教育費に吸い上げられて、永流が与えられていた小遣いは急に減りスマホの使用料が負担となる。
これまで使っていたスマホを格安にせざるえない。
だがお嬢様気質のせいでノンキャリアでありながら、見栄を張ってキャリアだとふれまわってるわけだ。
アイツがラッキーだったのは使ってる大手キャリアスマホの【SIMロック】が、たまたま解除できて格安スマホのSIMカードが使えたことだ。
キャリアが提供するスマホは不正に使用されるのを防ぐ為、各会社が売ってるスマホにしかSIMカードが機能しないように、制限を設けている。
これがSIMロックと呼ばれるものだ。
その制限を解除しSIMカードが好きなスマホで使えるようになると、SIMフリーとなるわけだ。
おかげで永流が持つスマホは見た目では大手キャリアだが、その内面はノンキャリア。
だが、永流は実の父親から買ってもらった、形見のスマホを手放さなくてすんだ。
中学生へ上がると互いの立場をわきまえるようになる。
地域の小学校から生徒が集まる。
その中には永流がいた。
彼女と同じ中学。
俺の頭の中はお花畑で満たされた。
あの時、二人だけで世界を作り人の目を盗んで秘密の時間を過ごした女子と、同じ中学に通えるんだ。
運命としか思えない。
しかし、永流は顔を合わせるなり、気まずそうに俺を遠ざけるようになる。
いつの間にか俺と永流は、世間体という壁で切り離されていたのだ。
中学の三年間は他人としての距離を置いて終わった。
その時の俺はどうしても現実を受け入れられなかった。
今思うとバカだよな。
思い出の女を追いかけて自分の進路を決めるなんて。
お嬢様の永流が進学する高校はかなり偏差値の高い学校で、学費もバカにならないほど金がかかる。
まず俺が始めたのは勉強。
授業が終わり解らないところは先生へ積極的に聞いた。
「ナクヨ、ウグイス、ヘイアン、Kyo! OKデスカ?」
先生は毎回、カタコトの日本語で要点を教えてくれた。
見た目は黒人だが日本語は普通に喋れんだよ!
勉強に勉強を重ねて中学の成績は上位まで上がる。
志望高の授業料に関しては、両親と話し合い「学の高い教育を受けられるなら後押しする」と、親も納得した。
結果、貧乏な家に学費で負担をかけるハメになってしまったが。
そして俺は永流の受験する学校を受けて合格した。
中学で同じ高校へ行ったのは俺と永流だけ。
俺と彼女の学園生活、いや……二人だけの世界が待ってると思っていた。
なのに、当の本人は人が変わったように人目を気にして、俺を野生で暴れ回る猿のように扱った。
まるで童話に出てくる氷の女王だ。
格安スマホの難点は大手キャリアのメールが使えないことだ。
十歳の時に永流に教えてもらったメルアドは使えない。
もう秘密の会話もできない。
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気を取り直して午後の授業へ望む。
昼飯で満腹になると胃が飯を消化するのにエネルギーを使うから、脳の活動が停滞して眠くなる。
睡魔にかられた自分と戦いながら、授業を終えた自身を褒め称えたい。
放課後は身支度を済ませ帰る前にトイレへ行き用を足す。
後は荷物を持ってこのままバイトへ直行だ。
今日も一日、携帯料金の為に汗水流すか。
教室へ戻るも何か様子がおかしい。
まるで運動会の棒倒しのように生徒が一つの机を取り囲んでいた。
その机とは令嬢こと飯嶋・永流だ。
the、モブというくらい地味顔の女子が永流を気遣う。
「飯嶋さん。どうしたの? スマホどうかした?」
「な、何でもない!」
「でもスマホ、なんかヤバそうだけど」
異変に気がついた男子生徒が一人、また一人とまるで蜜の花に誘われるハチのように、お嬢様の机へ寄り集まってきた。
「どうしたの?」「何かあった?」「大丈夫?」
なんだコイツら?
スマホのトラブルでこんなに群がるか?
パリピの思考は理解に苦しむ。
どこからともなく集まりやがって、生ゴミに涌いた小バエかよ。
SIMフリーは何かの怪奇現象かと思ってしまうくらい、理解しがたい通信の遅延や圏外が目立つ。
なので格安スマホを使う俺には珍しいことではないが、大手キャリアスマホを使ってるていで格安スマホを使うお嬢様からしたら、気が気でない。
お嬢様の宿命というヤツなのか、常に群衆の注目のマトになる。
無邪気な下世話はゲス同然。
するとそこへ――――。
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