帰り花

1/10
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

帰り花

 何色とも分からない海を割る朱。渡っていけば、私にも約束の地が与えられるのだろうか。それとも、ただ溺れ死ぬだけだろうか。黒い雲に押し潰されるように、日が落ちていく。  ガードレールを握り締めた両手はじっとりして、潮の滑りを黒くなすり付ける。セーラー服の襟を束ねるように結ばれた、スカーフのくたびれた白が、弱々しい風にすら煽られて顎をすうっと撫ぜた。このずっと下の、ともすればすぐ足元に敷き詰められた砂利のようにも見える、じいっと波に削がれて丸くなった岩たちからのラブコール。  それ以外は、なにも感じない、なにも聞こえない。土曜日のこの道には、車も走らない。  今日は絶好の、自殺日和だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!