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それで翌日、恐る恐る洗濯物を干しにまたベランダに出たら、案の定その日も左手は蹴破り戸の下を端から端まで隈なく探ってたよ。
ちょっと冷静になろうって、私はいったん洗濯物を部屋の中に置いて、蹴破り戸から少し離れてしゃがんだんだ。これはいったいどうしたものかって考えこんでさ。
下から覗き込む勇気はなかったね。
ベランダの床を彷徨う左手と、その前でしゃがみ込む私。手がまた諦めて引っ込むまで、シュールな構図は数分続いたよ。
それから、次の日もその次の日も、私は左手の出現を眺めて頭を悩ます日々。だいたい一週間くらいはどうにもできずに困惑するしかなかったね。
どうやら放置しても無害っぽくはあるんだけど、まあ気持ちの良いものでもないじゃん。
ベランダの端の一部分といっても、一応私の部屋のスペースなわけだし。
お隣さんがどんな人か? 文句言いづらい人なのかって?
うーん。ていうか、お隣なんていないんだよね。
私、今の部屋に引っ越してきて2か月なんだけど、ずっとお隣は空き部屋。今だって物件の検索サイト見れば出てくるよ。もちろん普段から一切物音や気配がしたことないし。
だからその左手は、本当に唐突な登場だったんだ。
まあ、陳腐だけど心霊現象ってやつなんだろうね。太陽の光がさんさんと差し込む、爽やかな朝のベランダでの出来事だけど。
でもさ、誰かがお隣に不法侵入して、さらにウチのベランダを探ってたとしたら、それこそ怖いじゃない。
どっちかって言ったら、心霊現象であるほうがマシかなって。
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