蹴破り戸

3/7
前へ
/7ページ
次へ
それにしたって、この左手はいつからこうやってベランダを探ってたんだろう。 私、花粉症がひどいから、2月に今のマンションに引っ越してきてから2か月、洗濯物はほとんど室内干ししてたの。最近になってようやく花粉も収まったから洗濯物を干すためにベランダに出たけど、普段は用なんてなかったから、ほとんどベランダに出たことなかったんだよね。 だったらこの手は私が気づかなかっただけで、これまでもずっとこうして何かを探し続けてたのかも知れない。 そう思うと、なんだか少し不憫なような、力になってあげたいような気持ちになったんだ。 疲れてるって? ‥‥そうかもね。だって色々あったし。 もう自分では平気なつもりだったけど、まだ私、どっかおかしいのかも。 でもとにかくさ、私が病んでるのかもとかそういうのは別にしてさ。 私は左手に、何かしてあげたくなっちゃったんだ。 もちろんちょっと怖かったけど、この手が何のために彷徨ってるのかわからないままっていうのもモヤモヤするしさ。 そこでとりあえずある朝、話しかけてみたの。 「どうしたんですか」 「何かお探しですか」 下から覗き込む勇気はやっぱりなくて、少し距離を取ってしゃがんで、蹴破り戸越しにそっと聞いた。 そしたら、左手はピタリと動きを止めたの。 ちゃんと聞こえてるんだ! 怖いような、好奇心がうずくような、不思議な高ぶりで心臓がどきどきしたね。 「あの‥‥何かお探しならお手伝いしましょうか」 左手は動きを止めたまま、じっと私の言葉に耳(?)を傾けてるようだった。 返事はない。 そもそも、返事はできるんだろうかって疑問が沸いたよ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加