第3章 優しさと冬

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第3章 優しさと冬

寒さの中、生きたいという一心でわたしは鳴き続けました。 しかし、誰も振り向いてはくれないのです。それどころか、鳴きすぎて濁ったわたしの声を、必死に生を願った声を、皆、口々に「汚い声」と笑ったのです。人間の言葉を理解出来ることをあれほど憎んだことはないでしょう。そんな中、わたしを抱き上げた人間がいました。少し茶色がかったストレートの髪の毛を冷たい風に揺らし、私を見つめる少女の瞳にはマヌケなわたしの顔が映っていました。 きっと周りの人間には、ただの少女と猫の戯れにしかみえなかったでしょう。ですが、わたしの立場からすれば彼女は救世主と言っていいほどの存在でした。 寒かったはずなのに少女の手は暖かく、その暖かさが冷えて痛い体に染みるのです。その日からわたしと、少女の生活が始まりました。
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