第1章 - 名誉

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第1章 - 名誉

中村健次は通学用カバンにナイフを入れた。その刃はハンカチで丁寧に巻かれてあった。ただ、上級生である本田から身を護るだけのために ―― 16歳になり、学校には友達もほとんどいなかった。健次がこれからすることは、もしかすると今の高校生としての日常がもう取り返しのつかないことになるかもしれないことは、彼自身わかっていた。 (暴力は何の解決にもならんぞ。) 彼がクラスメイトからのいじめや酷い仕打ちを受けたとき、何度も何度も頭の中で父親の最後の言葉が、まるで警告音のように鳴り響いた。 この助言がまったく役に立たないことを、健次は言ってやりたかった。 健次は今朝早く起床したため今日はバスに乗らず、学校までの一時間弱を歩くことにした。この長い歩行時間は、彼の決意を再思考するのには充分だっただろう。ここからは、もう引き返せないのだから。 そうした事を考え始める前に、健次の横を同じ制服を着た子供たちが大勢すれ違って行った。健次は思った。おそらく彼らの悩みと言えば、ただ学校の宿題のことや、あるいはこれからの人生目標ぐらいのことなのだろう…。     
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