283. 獲物がいないので、強制転送しました

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283. 獲物がいないので、強制転送しました

 大量のオークの群れに鉢合わせし、次にゴブリンの巣穴にちょっかいを出した。リリスが活躍する間はなかった。横から襲いかかったオークはルキフェルによって豚肉加工され、ゴブリンは巣穴をつついたルシファーが責任をもって処分した。  豚肉はベーコン加工をリリスが求めたため、先にメモ付きで城門へ転送する。罪人じゃないが、門番がイフリートに引き渡してくれるだろう。  森を狩り予定地として告知したので、魔族は夜までこの周辺に近づかない。現れるのは魔物分類されるオークやゴブリンといった連中だけだった。ルキフェルとしては、個人的にミノタウロス(牛肉)希望だ。 「……コカトリスいないね」  しょんぼりするリリスは、今日の獲物と定めたコカトリス一筋である。オークの群れをルキフェルに狩られても、じっと見ているだけだった。もしかしたら先ほどの『部下に手柄を譲る』を彼女なりに守ろうとした結果かもしれないが。 「コカトリスは……もう少し先にいると思うぞ」  慰めるルシファーだが、ちょっと目が泳いでいる。この辺りはコカトリスの生息域から少しズレているのだ。もっと奥地へ入らないとコカトリスはいないだろう。しかし時間が足りない。いっそ転移してコカトリスの生息地に乱入するか。  物騒なことを考え始めたルシファーに気づいたルキフェルが、手に小さな魔法陣を作り出す。隣を歩く魔王の袖を引いて手のひらの魔法陣を見せた。 「これ」 「ん……やってみよう」  会話の内容が少女達にバレないよう、魔法陣を陰で発動させる。ルシファーが張った結界の外で、ルキフェルがこっそり展開した魔法により、遠方のコカトリスを特定して転送した。  先ほどまで餌の蛇を突いていたコカトリスは、強制転送で目を回している。鶏の頭部を大きく振るって、足元の小さな魔族に気づいた。さきほどまで食べていた蛇は消えたが、違う餌がいる。三歩歩くと前の記憶が抜けていく残念な鳥頭ぶりを発揮し、コカトリスは喜びの声を上げた。  ぐげぇえええ!  飛び出したコカトリスは目の前の餌にとびかかる。しかし餌扱いされる側の少女達は非常識な存在だった。魔族の中でも将来有望な子ばかりである。すぐに結界の中で戦闘態勢を整えた。 「あれはリリスの!」 「「お任せします」」  ルーサルカとシトリーの声に、頷いたリリスが地上のコカトリスを指さす。突然の転移に状況が理解できずに威嚇するコカトリスが毒を吐いた。見るからに毒々しい紫色の吐息が、ルシファーの結界の外に広がっていく。  本来は討伐が難しくない鶏トカゲもどきなのだが、この強烈な毒のせいで討伐は一部の種族に限られていた。それは魔王軍でも同じで、呼吸を止められる種族や毒に耐性がある者が専門に狩っている。しかし常に最強の魔王の結界で守られたリリスにとって、コカトリスはから揚げの材料に過ぎなかった。 「どーん!!」  ドラゴンの翼と爬虫類の尻尾を持つコカトリスは、直撃した雷に耐え切れず倒れた。大きな体を横倒しにした獲物の姿に、リリスが頬を緩める。 「パパ、とれたぁ!!」 「立派なコカトリスが獲れたな、一番の獲物だぞ」  褒めるルシファーがリリスを抱きしめる。飛びついてきた愛娘を受け止めたルシファーの視界で、ルキフェルが消火作業を始めた。飛び火した雷が周囲の森を焼いているのだ。水が得意なルーシアや植物に特化したルーサルカも手伝い、なんとかボヤ程度で消火できた。 「森も燃えなかったし、コカトリスをもって帰ろうか」 「やだぁ!!」  全力で拒否され、リリスの顔を凝視する。コカトリスが獲れたら満足して帰ると思っていたのだが、何やら様子が違う。ルキフェルとシトリーが毒を吹き飛ばした森の中で、リリスは左側を指さした。 「あっちでぇ、お魚も捕まえるの」 「……魚も?」  ルシファーが空を仰ぐ。あまり遅くまで連れまわすと、次の外出が厳しくなる。日が暮れて戻ったら目くじら立てるだろう側近達を思い浮かべ、ルシファーは溜め息をついた。
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