15. 結界が強すぎて戦いになりません

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15. 結界が強すぎて戦いになりません

 明らかな実力差は外見にも表れている。  騎士2人は褐色の肌に黒髪や茶髪、魔法使いは金髪だが肌は浅黒い。女神官は明るい肌色だが髪は黒い。一番白いのは勇者を自称する青年だ。彼の肌は白っぽいオレンジで、髪も瞳も明るい茶色だった。 「死ねっ!」  再び剣を振り翳すが、物理的な力は結界が弾いてしまう。この結界を物理で破れるとすれば、神龍(シェンロン)の爪や竜族(ドラゴン)の突進、灰色魔狼(フェンリル)の牙くらいの威力が必要だった。人族が短い人生で到達できるレベルではない。  キン! 甲高い音で弾かれた剣が宙を舞い、勇者達の前に突き刺さった。数歩先に落ちた剣に、思わず勇者が後退る。咄嗟に魔法使いが結界を張ったが、触れる手前で地に刺さったため意味がなかった。 「あっ」  思わず声が漏れたルシファーに、アスタロトが説教じみた声をかける。 「陛下、地が出てます」 「悪い」  もう少し威厳を保て! と叱咤され、ルシファーは表情を引き締めた。飛んだ剣が、仲間である勇者達に当たったとしても、偉そうに見下していなくてはいけない。あとでベールやアスタロトに説教されるから。  情けない理由で口を噤んだ魔王は、腕の中でご機嫌なリリスに気付いて頬を緩めた。結ばない白い髪を一房握った彼女は、きゃっきゃと可愛らしい声を立てる。 「可愛いなぁ、本当に可愛い」  心の声は溢れてとめどない。小さな指にきゅっと髪を引っ張られて痛みを感じても、ささやかな悪戯ができるようになったリリスの成長に、喜びが先にたった。 「……我々を馬鹿にしているのか!」  叫んだ騎士の声に、びくりとリリスが揺れた。驚いたのか、赤い瞳が大きく見開かれている。ルシファーはリリスに笑顔を向けたまま、無造作に右手を振るった。ひらりと何かを払いのける仕草で、騎士2人をどこかへ転移させる。  実力差がありすぎて殺すのも大人げないと考える魔王がよく使う術だった。しかし落下地点の安全性に配慮しないため、生きている確立は低いだろう。ルシファーが知らない場所で、魔獣達の餌になっていた。おかげで魔獣に感謝される魔王である。 「よしよし、泣かなくていい。ほら」  ルシファーは目の前の勇者の存在をすっかり忘れていた。リリスが笑ってくれたので、長い白髪を玩具がわりに揺らして気を引く。 「陛下っ!」  アスタロトが悲鳴に近い声で叫んだ。 「ん?」  顔を上げた先で、勇者が必死の形相で剣を振り上げる。仲間である騎士が排除されたことで、戦う気になったらしい。1番外の結界にヒビが入った。  3枚の結界は中に入るに従って強度が増す。ヒビが入った結界の様子に、ルシファーは素直に感心した。 「へえ、勇者を自称するだけあって、それなりにやるな」 「自称ではなく本物だ!」  さらにヒビへ剣を突き立てる。魔法で起こされた炎の弾がいくつも援護し、結界の表面で花火のように散った。何度も剣を打ち付ける青年をよそに、まったく危機感のない魔王――勇者が気の毒になる光景だ。  きゃあきゃあと、声をあげて喜ぶリリスが手を伸ばす。結界に弾かれる炎が気になるのだろう。熱さも痛みも知らず喜ぶ姿に、ルシファーの頬が緩んだ。  両手で抱き締めて頬ずりする。すると炎から気がそれたのか、再びルシファーの髪を引っ張って遊び始めた。 「リリスは炎が好きなのか? 花火も好きだといいな」  親バカ全開で花火の手配を考える魔王に、アスタロトは隣で項垂れた。世間に対して作ってきた『強く美しい魔王陛下』のイメージが音を立てて崩れていく。 「陛下……自重を」  お願いします、と顔を覆って嘆く側近に、城門の兵達が同情の眼差しを向けていた。
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