03. 魔王様、城門前で拾いものをする

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03. 魔王様、城門前で拾いものをする

 魔王城の城門に魔族が集まっている。髪や目の色は様々だが、肌の色は一様に白かった。この世界では魔力の量が多いほど肌が白くなる。  理屈を解明した者はいないが、それは人族や魔物にも適用されていた。そのため魔力が少ない人族は皆が褐色の肌をしており、稀に魔力がない者は真っ黒い肌だと伝え聞く。  魔力量をはかる色は、肌、髪、瞳の順で表された。同じ髪色ならば肌の白いほうが魔力を多く保有しているのだ。ほぼ純白に近い魔王の容姿は、力こそすべての魔族にとって信奉の対象だった。 「おぎゃ、おぎゃああぁあ!」  カラスのような泣き声に呼び寄せられた彼らは、困惑していた。  魔王城に近づくのは魔族くらいだが、なぜか城門前に包みが置かれていた。泣き声は中から聞こえ、城門の守衛である男が包みを開くと、中身はおくるみに抱かれた赤子。  白い柔らかな布に包まれた赤子は、肌が白い。どうやら魔族と人族の子供らしい。明らかに魔族の肌色だった。そのため捨てられたのだろう。  魔力が高い魔族にはさほど珍しくない色だが、混血を嫌う人族の中では目立ってしまう。そんな子供を生めば親も迫害される。自分の身を守るため子供は傍に置けなかった。だが森の中で魔物に食わせる非道な真似も出来なかったようだ。  合意で魔族と関係を持ったなら、覚悟を決めた人族の親は子供を捨てなかったはず。そう考えれば、あまり好ましくない状況で生まれた子供だと思われた。おそらく魔族の男が(たわむ)れに人族の女を襲ったのだろう。  人族も魔族も基本は同じだった。良い者もいれば、悪い者もいる。罪を犯した魔族の逃げる先は、弱者の国である人族の居住地であった。自由に振舞える地で好き勝手した結果が、(まれ)にこうして届くのだ。  容易く予想できる状況に、集まった者は顔を見合わせて溜め息を吐いた。  生まれたばかりだろう赤子は、誰かが覗き込むと泣き止む。見開いた大きな目は赤、髪の色は美しい黒髪――顔立ちも愛らしく、男女どちらでも将来は美人になると確信できる。  可愛らしい赤子に同情した獣人女性が指で触れれば、小さな手がきゅっと握られた。まだ大人の指を掴むには小柄な手が、閉じては開く。生後数ヶ月だろう赤子は手がかかる。 「どうしたものか」  呟いた守衛の声に、後ろから若々しい声が重なった。 「オレが引き取ろう」  振り返った者は皆、己の目を疑う。黒衣を纏った青年が1人で立っていた。背に黒い大きな翼を広げ、対比するように白い手が赤子を拾い上げる。膝の辺りまで届く長い髪は真っ白で、月の光を宿した銀の瞳をしていた。 「魔王陛下!」  守衛の声に、誰もが頭を下げる。拾った赤子を右手に抱き、陛下と呼ばれた青年ルシファーは苦笑いした。見た目は10代後半くらいと若い。  散歩を切り上げて戻った城門で、普段より多くの人が集まっている様子に惹かれて顔を出しただけだ。広げていた黒い翼を消してから、長い前髪を無造作にかき上げた。 「いいよ、堅苦しいのは。皆も楽にしてくれ」  気さくにそう告げる。ひらひら左手を振って立ち上がるように促され、街の住人達も頭を上げた。昔からだが、この青年は肩書きに相応の扱いを嫌う。本人曰く『面倒な纏め役を押し付けられた、不運な魔族だから』だというが。
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