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僕が柔道を始めたのは、中学校一年生のときだ。それまで、特に運動が得意だったわけではないが、たまたまテレビで放映されていた試合で小さな選手が大きな選手を投げ飛ばすのを見て、柔道部に入ることを決意した。僕は体格に恵まれた選手でもなく、それほど強いわけでもない。高校生になって初段を取得し、黒帯を締めているものの、試合ではせいぜい三回戦まで行くのがやっとだ。
だけど今回は、高校最後の試合になるということもあって、僕はそれなりの覚悟をもって練習に取り組んできたつもりだ。誰よりも必死に練習したという自負もあるし、調子だって悪くはない。さすがに優勝などとは考えていないが、せめて八強くらいには入りたいと思っていた。だけど、結果は二回戦敗退。これで悔しくなかろうはずがない。
僕は木陰のベンチに腰を下ろした。もう涙を押さえることはできそうもない。僕は止めどなく溢れてくる涙を柔道着の袖で拭う。ひどい汗の臭いが鼻を突き、それがまた悔しい気持ちを増幅させる。
「あんた、こんな所で何してるの?」
突然かけられた声に顔を上げてみると、剣道着姿に竹刀を持つ友梨奈が立っていた。
「なんだ、友梨奈か」
「なんだって、何よ。それよりあんた、試合はどうなったのよ?」
「見ればわかるだろう? 二回戦敗退だよ。中学一年から続けてきた柔道もこれで終わりさ」
「そっか、負けちゃったんだ。あんなに頑張ってたのに、残念だったね」
「まあ、仕方ないさ。それよりそっちはどうなんだよ?」
「私? 私はとりあえず二回戦突破よ。女子は人数が少ないから、あと三回勝てば優勝よ」
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