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僕は元いた木陰のベンチまで行き、腰を下ろした。本当は柔道場に戻るべきなのだろうが、戻ったところで僕の居場所などない。おそらく、僕の後輩は、さきほどの試合に勝って、次の試合にコマを進めているに違いない。顧問の先生もチームメイトも、すでに負けた選手に構っている暇なんてないはずだ。
五分ほどが経ったとき、剣道場の方から友梨奈が歩いてくるのが見えた。友梨奈は僕の姿を確認すると、急に走り出し、そばまでやってきた。
「あはは、負けちゃったよ」
友梨奈は立ったまま、右手で頭をポリポリと掻く。
「知ってるよ。判定負けだろう?」
「何で知ってるの?」
「見てたから」
「えっ!? 見てたの? なんか恥ずかしいな。さっき、行けるところまで行きたいなんて、格好つけたばかりなのに」
友梨奈は少し恥ずかしそうに笑う。それから、ゆっくりと僕の隣に腰を下ろした。
「泣かないのか?」
「泣かないよ。泣いたって、仕方ないもん」
「悔しくないのか?」
「そりゃ悔しいよ。でも、自分の力より相手の力が勝ってたんだもん。まあ、もしも次に試合があるのなら、絶対に負けたくはないけど、これで終わりだしね」
「そうだな」
僕がそう呟いて隣を見てみると、友梨奈はずいぶん寂しそうな表情を浮かべていた。
「仕方のないことだけど、なんか、いろんなものが終わっていくね。あんたの柔道も、私の剣道も、それに一緒にいられる時間も」
「一緒にいられる時間?」
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