最終章◆初恋の結末

5/12
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/209ページ
エミちゃんとカフェで別れ、アパートへ帰るついでに、少しだけ散歩をした。 もうすぐこの町を離れる。町からヴァンパイアの館も消える。 そう思うと、カバンを肩にかけたまま、私の足は自然と館の前へやって来ていた。 館の入り口の前には桜の木があり、もういくつか蕾が顔を見せている。 二年前まで、この木が桜の木だとは知らなかった。 葉もつけず、花も咲かない枯れた木だったからだ。今はまるで呪いから解かれたように、花を咲かせようとしている。 館の門には立ち入り禁止のプレートが立てられていたけれど、私はそこをスカートのまま跨いでいく。 ついさっきまで市の職員がいたのか、かすかに埃が舞っていた。 自分のヒールの音が、少し遅れて鈍く響いている。 ここへ来るときの目的はいつも決まっていた。 私は暖炉の前へ近づいて、誰もいないそれと向き合ってしゃがんだ。 「……シュヴァルツさん。私、もうすぐこの町を離れます」 呟きはほんの小さい声なのに、じんわりとこの空間に響いていく。 二年間、私は忘れられない彼を、ずっとここで待ち続けていた。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!