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「……ねえ朱莉ちゃん、私まだ疑ってるんだけど、本当にあのときの記憶、全然ないの?」
「ないよ。どうして?」
「あのときのこと話すとき、朱莉ちゃん、少し寂しそうにするから。何か覚えてるのかなって」
「何も覚えてないよ。覚えてたら、警察の人に話してるし」
「そっか。あ! そういえば、あの“ヴァンパイアの館”、ついに来週取り壊しなんでしょ? 知ってた?」
「うん、知ってるよ。市の人がしょっちゅう視察に来てたから。本当、ついに、だよね」
「やっぱり、事件のことがあってから、役所の人も覚悟決めたって」
ふふふ、と笑う彼女に、私もうっすらと笑みを浮かべた。
思い出の詰まったあの館が取り壊される。つらかった昔のことを思い出すと複雑な気持ちになり、カフェオレのストローを吸った。
「……で、朱莉ちゃん。私、一番肝心なこと聞けてないんだけど」
「え? 何だっけ?」
「加賀先輩だよ! 今、どんな関係なの?」
私はストローを咥えたまま目をパチパチさせた。
お昼に会っていた先輩の姿を少し思い出した。
「どんな関係って?」
「とぼけないの! ……告白されたんでしょ?」
「……うん。びっくりした」
「で!? 断ったって本当なの!? あの加賀先輩を!」
「……うん」
「どうして?」
「……んん、どうしてだろう」
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