252人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章◆行方不明事件
++++++++++++
『次のニュースでは、月夜ヶ丘町の行方不明事件について詳しくお伝えします』
ラジオ番組のアナウンサーは今日も同じ特集を読んでいる。
理学部棟・第十八研究室。
私はブラウスとスカートの上から白衣を羽織り、シャーレの中の透き通った培地をじっくりと眺めていた。
隣では、PCを使って解析作業をしている加賀先輩のマウスの音と、彼が常につけているラジオの音だけが響いている。
院生の加賀先輩は理系男子にしてはコミュニケーション能力が高く、白衣を着ていてもお洒落に見える、リケジョ達の間ではトップクラスの人気を誇る人だ。
私・白雪朱莉は、教授に頼まれ彼のアシスタントを務めている三年生。
研究室のメンバーは他にもいるのに今日は珍しくふたりきりで、緊張のせいか背中がピリピリと張りつめていた。
「白雪さん。培地どう?」
「は、はい。追加でフラスコに作っておきました。使用後のものは滅菌してあります」
「手際いいね。ありがとう、助かるよ」
先輩が手を止めて微笑んだので、私も同じ顔を作って、それに応えた。
シャーレをしまい、使ったフラスコやピペットの洗浄に入る。
私はただ黙々と進めたが、緊張に耐えきれず横目で先輩を盗み見ると、彼の解析も一区切りつきそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!