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取引現場
灯台の100mほど手前でタクシーを降りた望は、岸壁に腰掛けながら夜釣りを楽しんでいる人たちが10人ほどいるのを見て安心した。
突き出した岸壁の先に立つ灯台に向かうにつれ、釣り人はまばらになったが、夜釣りの取材でもしに来たのか、大きな丸いアンテナをつけた窓の少ないバス型の中継車が止まっていて、中からテレビカメラやマイクを持ったクルーたちが降りて来る。
横を通る望を、ちらりと見たクルーの一人が声をかけてきた。
「お嬢さんも夜釣りに来たの? 道具が無いけれど、もうどこかで仕掛けてるの? そうだったら取材させてくれないかな? 」
少しなまりのある日本語に振り替えると、日本人にしては彫が深い男性がにこっり笑って望の方へ歩み寄ってくる。望は克己を探さなくてはならないので、慌てて首を振って夜釣りじゃないと告げた。
「ごめんなさい。人と会う約束をしているんです」
「そうなんだ。残念! でも、もし灯台の方に一人で行くのなら、高台になっていて風が強いし、足元が暗くて危ないからやめた方がいいよ。こっちに呼び出したら? 」
「ありがとう。気を付けます」
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