初恋の足音

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高校に入学してから、心臓がうるさい。 通学電車のざわめきの中でもすぐにわかる。 胸がトクトクと私を容赦なくノックする。 私が彼について知っていることは、まだわずか。 隣のクラスだということ。 私より20センチぐらい背が高いということ。 毎朝この駅から乗ってくるということ。 数人の友達と賑やかに話しながら電車に揺られていること。 いつも手には文庫本か漫画があること。 とても優しい声をしていること。 とても優しい顔で笑うこと。 真っ直ぐな黒い髪、少し眠そうな瞼。 お年寄りの人や体調が悪そうな人には席を自然に譲ってあげること。 だからついつい気になっちゃうんだ、君のこと。 電車が桜並木を通る。 まるで桜トンネルのように 窓の外がピンクでいっぱいになる時 私は窓から空を見る。 彼も窓から空を見る。 その時だけはきっと同じ気持ちが胸をいっばいにする。 「キレイだなあ」と思わず呟くその声が 私に向けられたものだったらいいのに……。 学校の最寄り駅に着く。 今日も話しかけられなかった。 電車を降りる混雑の中でほんの少し肩が触れ合う。 それだけで全身が熱くなって、それだけで生きていけそうな気がする。 もっともっと、君を知りたい。 明日こそは。 きっと明日こそは。 君に「おはよう」と話しかけたい。 その想いだけでこの春が色づく。 踏み出す足に力を込めて、君の背中を見ながら、 私は世界一幸せな通学路を歩いていく。
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