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エミに久しぶりに先生の話をすると「覚えてるよ」と言った。
エミは小さいときからずっと一緒にいる、僕の恋人だ。
「先生は僕の初恋の人なんだ」
「ふーん、そうなんだ。まぁでも、綺麗だったもんね。誘拐されたんだっけ?」
「誘拐?」
「ほら、突然いなくなったじゃない?お母さんがずっと怖いわって家で言ってたし、けっこう噂になってたよ?」
知らなかったの?とエミは僕を覗き混んでくる。
「知らなかった」
唖然としてしまった。まさか、先生が誘拐されていたとは。
そういえば、「先生に会いたい」と泣いた僕に大人達は「もう会えない」としきりに言っていたような気がする。
幼いときのぼんやりした記憶が、涙を浮かべたときの歪んだレンズが、何か大切なものを忘れたように脳裏に浮かんで、またすぐに消えていった。
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