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「……どうした?」
「えっ!?」
「何だか気難しい顔をしたかと思ったら、赤くなったり。まるで百面相みたいな顔してるから……何か悩みでもあるのかと思って」
……本当、よく見てる。
でも言えない。
あなたのことで悩んでるなんて。
口が裂けても言えない。言いたくない。
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
得意の営業用スマイルで。
やんわりと断ったつもりだったのに。
「『大丈夫』って言うやつに限って、無理すんだよなぁ。全然大丈夫じゃないだろ」
…………。
見抜かれてる……。
「もう! 本当に大丈夫ですから!」
つい強がってしまう。
可愛いげないなぁ、と自分でもわかってる。
わかってるけど……。
「本ッ当、甘えるの下手だよなぁ……」
強面のその表情が、柔らかく微笑む。
「……甘えさせてやりたくなるじゃないか」
ぼそっと漏らしたその言葉が聞き取れなくて。
「えっ? 今なんて……」
思わず聞き返す。
「……ったく、わかってないなぁ。男はなァ、女に頼られると嬉しいもんなんだよ」
頭を掻いて、くるりとこちらに背を向ける。
あ。
もしかして……照れてる……?
「……全然、意味わかんないんですけど」
そう言ったら。
大きく溜め息をついて、肩を落とした。
そして。
向き直ってこんなことを言った。
「お前はよく頑張ってる。成績も上がった。それは誰が何と言おうとこの俺様が認めてる。つまり……何かあればフォローしてやるから肩肘張って無理すんな、って話」
きっと。
顔が赤くなった、はずだ。私。
『認めてる』
その一言がこんなに嬉しいなんて。
「……大丈夫ですか? 熱でもあるんじゃないですか?」
「お前ねぇ……。誉めてやってんだから、ちったぁ喜べよ」
そう、私達の関係はこれでいい。
上司と部下。
恋愛感情ではなく、信頼関係で繋がってる。
これで充分だから。
あなたのこと。
想っていてもいいですか。
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