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Prologue: THE UNTOUCHABLES
自分以上に街に貢献した人間は居ない、とは知事や市長が常に抱く自負であり、そして多くは錯覚だ。常に人は謙虚であり、それを自らに戒めとし、まだまだ前途多難であると心に強く刻むべきだ。私が心情としているのは、そういう事。だから、ここ二十年というそう長くない歴史の中でも、私は歴代で最も長い任期で知事を任されて貰えているのだと思う。眼精疲労でシパシパとする目頭を押さえ、私は息をついた。
そうして必要書類に目を通し捺印をしている途中、ドアをノックする音がした。入る様に促すと秘書が、失礼します、と言って入って来た。
「先生。五分前です」
うん、と応じて私は朱肉を閉じ、引き出しの中に丸めていた一揃いのネクタイの中から、人目を引きやすいワインレッドのそれを手に取り、急いで締めた。
そんな私の様子を見ながら、秘書の女性は心配そうに言う。
「先生、やはり屋内での会見に切り替えた方が……」
対し、私はそんな彼女の不安を笑い飛ばした。
「マスクの心配? それとも『渚』の妨害工作が怖い?」
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