Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 だから今、一企業に対する援助を決定した私のこの意思表明は、慎重に言葉を選ぶ必要がある。顧問弁護士とも相談しながら、一字一句を入念に決めたスピーチ原稿を、丁寧に、聴衆の心に響く事を願いながら私は演説をする。  壇上に上がった私の顔を、マスコミが、カメラとマイクを向けながらじっと見ている。半面体のマスクを付けた報道陣は、鼻から下の表情が一切見えない事も相待って何を考えているのか丸で分からず、屋内で行う会見やインタビューとは全く違う様相を呈している。正直、私としても演説をしづらい節はあった。だが、私はめげなかった。 「……この様に、先進国基準から見て既に技術後進国に甘んじているこの国の未来を担う、未来へ挑戦し続ける企業と提携出来る事を喜ばしく考えております」  情感たっぷりに、心を込めて。勿論心からそれを思って演説しているのだが、更にその言葉に重みを掛ける様に意識する。そして何よりも肝要なのは、企業との提携をする事でいかに市民にメリットがあるかを主張するという事だった。実際、技術開発や協力、フジカズのみに限らず様々な企業や研究職への支援を今後の目標としていく事を、何より重視して演説をした。  それでも、演説後の記者質問から飛んでくる質問の多くは、偏ったものに集中していた。あれだけ市民の利益や潜在的な将来性への投資である事を主張しても、彼らは第一声にこう尋ねるのだ。 「これは選挙法に違反するのでは?」     
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