Prologue: THE UNTOUCHABLES

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「そもそも技術が海外へ流出しているのは、技術者に対する正当な対価や報酬が軽視されるこの国の、管理部門に問題があります。海外では価値のある技術には適切な報酬が支払われています。有能な人材や技術は流出しているのではなく、この国が自ら放出してしまっていると考えてもらいたい。その放出された技術が海外で、真の意味で企業外部に流出し、その技術が難民や移民と共に伝わる事で『渚』が力を付ける、いわばこの国が或る面では自分達の過失により、技術を逆輸入させてしまった面もあるでしょう。こうした技術開発への支援活動は、この都市のみならず、国内の将来的な技術流出防止や然るべき利潤の拡大も目的としております」  また次の質問が、別の記者から発せられた。 「国内最高齢者である早乙女氏への延命技術獲得も目的の一環でしょうか。『渚』の活動が広がった影響で、自然の摂理に反すると反目する声もある様ですが」 「我々の祖父の世代では、平均寿命は今の一・五倍だったと聞いています。しかし運命や宿命が例え今の人類の平均寿命を決定していたとしても、それに抗い生き抜こうとするのは生物として当然の事ではないでしょうか? 私は医療と、そしてこの大気汚染に怯える日が無くなる事を願い、日々を生きています」  全く、何という低レベルで低俗な質疑だろう。政治家を陥れる事を目的としている報道だから、真実や真に有益な情報を拡散しようとしない。  強い権力を持つ組織が悪役で、非力な大衆こそが正義という構図は、特にこの日本で広く好まれている構図だ。だが、その構図を信奉するあまり、有りもしない構図を作り出して自分達が英雄になろうとしている。それが、所得格差の拡大する現代の市民に対する要望に答え続けようとしている事の証左だろう。それが彼らにとって真の有益な情報を何ももたらさないと、民衆が気付いている事にさえも気付いていない。     
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