Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 私がその方に目を向けると、メディアを囲む聴衆の垣根を掻き分けて、全面体のマスクを付けた小学校低学年くらいの少女が一人、トトト、と駆け寄ってくる。彼女の手には、色取り取りの花を添えた花束が抱えられている。  嬉しいサプライズだった。私の活動は、決して無駄にはなっていないのだ。私が信念を持って活動をしている限り、きっとこの少女の未来も報われる。決して、私の家族がそうだった様に、貧困に苦しむ人生など誰にもあってはならないのだ。  私はまばらな拍手に囲まれながら膝を折り、駆け寄る少女の視線の高さに目を合わせる。児童用の可愛らしいデザインがされたマスク越しに、少女は「はいどーぞ」と花を渡してきた。  ありがとう、と私は笑顔で、彼女が差し出す花束に手を伸ばした。 「お父さんとお母さんは、何処かな」  訊くと、少女はフルフル、と首を横に振った。どういう意味だろうか。彼女は答える。 「これ渡すまで絶対に手を離しちゃ駄目だよって、あそこのね」  言いながら振り返り、少女は人垣の向こうの誰かを指差す。「知らないおじさんが」  花束から少女が手を離した瞬間、カチン、と金属質な音がした。
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