Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 フジカズ・コーポレーションの企画・開発した新製品のマスクだった。構造はスタンダードな半面体。吸気弁を正面に備えた構造で、排気弁は二つ。大衆向けの比較的低コストのデザインから、新開発された特別製のラバー素材を面体に使用しており、装着した時の肌触りの心地は、従来のものと比べ物にならない程快適だった。驚嘆すべきは、吸収缶の持続時間だろう。これまでの業界の最長連続効果保持時間である十時間を大幅に上回る二十時間を実現させたにも関わらず、そのサイズは従来のモデルと殆ど変わりが無いのだ。  来月から一般商品として販売される新型であり、当然値は張るものだと思っていたが、フジカズの広報担当は、面体も吸収缶も従来モデルと変わらない据え置きの値段で販売を予定しているという。開発費の回収などは大丈夫なのかと問うと、質でも量でも勝負出来るブランド力を持っているから、との返事が返ってきた。事実、この大幅な吸収缶とマスクの改良は、特に屋外労働従事者にとって大きな魅力となる。世界人口の八割を占めるこの低所得者層をターゲットにするには、彼らのブランド力に裏付けされた販売力が何よりの強みなのだろう。事実、先行販売という形でここの区役所員は皆、フジカズと業務契約を結んだ事で支給された同社のマスクを着用する様にしている。  選挙法に違反するのではないか、という指摘はあった。だが、企業と役所の業務提携など、何十年も前からやってきた事だ。役所の備品などの必要物品も業者と契約して割引で仕入れている。それと同じ事だ。それに、表立ってフジカズの宣伝をするわけではない。     
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