Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 当然の事ではあるが、企業という母体が第一に考えねばならないのはその存続だ。企業が存続するには商売をし、資金繰りをしなければならない。技術開発は、常にそうした損得勘定を頭に入れている人間が仕切らなければならない。だが連中は総じて、到底無茶な納期や期限を提示して、しかも低賃金・低技術で実行させようとする。それを補う負担のしわ寄せはいうまでもなく、マンパワーの酷使に集約される。  設備投資ばかりで、それを動かす人間の事を考えないのさ。親友はそう愚痴った。前に会った時よりも、だいぶ太っていた。曰く、ストレスと酒の所為だと。 「俺達の父親とか爺さんが現役で働いていた時代の悪習がまだ抜けないのさ。第二次世界大戦後の敗戦国として異様な速度で経済成長した理屈が、現代でも通用すると思ってやがる。人も時間も予算も出し渋って、こっちが死ぬ気で、不眠不休で開発して何とか成果を出すと、『やれば出来るじゃないか』って自慢気に言いやがる。もう、あの職場で同期は俺しか残ってない」  そう愚痴を零し自棄酒を煽る親友の言葉に耳が痛んだ。彼に悪気は全く無いのは分かるが、私は寧ろ、現場を知らずに指示を出す、そうした立場の人間なのだ。     
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