Chp.2: V for VENDETTA - 1

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 待ち時間の異様な長さに腹を立てる程私は短気ではないが、それでも定期検診として隔週で一日の時間を奪われるのは気が重い。付き添いの瑞希に余りにも申し訳無かったのでもう一人で通院する、と少し強引に突っぱねてしまったのは、いつの話だったろうか。ただ無為に時間を浪費していると、つい昔の事を繰り返し思い出してしまう。  と、病院の広い応接室の向こう、救急患者搬入出入り口から、医師が大慌てで若者を乗せたストレッチャーを押し運んできた。失礼ではあると思いながらも、眼鏡を指で押し上げて搬入された患者の様子を盗み見る。閉じた両目から血の涙を流し、鼻や口からも血を流している。かなりの出血だった。既に大学生らしいその青年はピクリとも体を動かさずに、ぐったりと横たわっている。  ああまたか、と私は眼鏡を外して顔を手で拭う。  また一人、若者が将来に絶望して自殺を試みたのだ。全身からの出血は、大気を吸引した際の症状だ。ガスマスクをせずに外気を肺へ吸入した場合、吸入から約十秒で呼吸器系に異常が出始める。そこから更に十秒もすれば喀血し、痛みと出血量が加速。最終ステージでは目や耳、鼻、排泄器からも出血を始めそれぞれが激痛を伴う。大抵は、失血死するよりも先にショックで苦しみ、死ぬ。     
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