Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 彼の様な友人は、私の周りに何人も居る。だから、せめて持てる権力を使える範囲で行使し、そうした技術者・研究者などの財政支援をするように努めている。今度のフジカズが開発したこのマスクも、その労力や時間を掛けてこその産物である筈なのに、値段を従来モデルと同額で販売するとあっては報われない。きっと、私達が業務提携をして更に割引になった値段から、企業の役員が中抜きをして、残りを下請けに流すのだろう。  だから、今回の業務提携の発表と併せて、技術開発支援を所属政党に打診していくつもりだ。私も四十を少し過ぎ、残された人生もそう長くはない。だが逆を言えば、まだ年功序列制度が公務員に適用される時代錯誤のこの国で、私の今の立場は優位に働くだろう。  ホールを通り、職員が慌ただしく動き回る中、彼らの迷惑にならないよう静かに、そして足早に表口へ向かう。 「記者は、もう集まっているのか」 「はい。そう聞いています」  言いながら、秘書は出入り口のボタンを押す。空調チェンバーの扉が開いた。三メートル四方の鉄で囲まれた密室空間に、私達は足を踏み入れた。後続者が居ない事を確認し、秘書は内側のボタンを押し、扉を閉める。鉄製の扉が閉まり、噛み合わせに使われているラバー素材が僅かな隙間も逃さず個室の空気を遮断した。出口側の扉上部に設けられた赤と緑のランプの内、赤いランプが光る。同時に、チェンバーに機械アナウンスが流れ、壁に複数言語にて表記されている警告文と同じ文句が響いた。     
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