Chp.2: V for VENDETTA - 1

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 言って俺は、雨宮の座るデスク後ろの壁、二メートル程の高さの場所を指差した。白いペンキで、簡素にデフォルメされた潜水艦のシルエットが描かれている。そのシルエットの周囲を円形上に集中線を描き、その存在を強調させていた。そうだね、と雨宮は自虐的に微笑む。 「父も家族も、人の善意も見限ってしまった僕にとっては、こうあれかし、と信じたいものが無くなってしまった。この世は、こんな窮屈なマスクを着けて生活しなきゃならなくなった世界になってしまったとしても、それでも戦う価値のある素晴らしいものだって証明したくなったんだ。……綺麗事に聞こえる?」 「まさか」  それを疑ってしまったら、何の為に目の前の男は二年間、リーダーの座に就いて以来大きな組織変革の努力をして来たというのだろうか。  今雨宮の話を聞いて、俺はようやく少し得心する事が出来た。金持ちの為の教育でも貧民の為の教育でもない、純粋に質の高い教育を受けた彼だからこそ理想を高く抱いている。だから、人の上に立つ人間になろうとしたのだ。  だがそれでも、どうして組織を牛耳る対象として、嫌っている父親の支出した『渚』を選んだのか。訊くと、 「一番大きくて人数が多い。にも関わらず食料や酸素の供給が十分。格差や貧困そのものではなく、それを原因とした生活環境や政治体制に対して不満を持っている。……この条件を完璧に満たしているのは、この系統の団体では『渚』だけだった」 「じゃあ、イデオロギーについては?」     
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