Prologue: THE UNTOUCHABLES

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 幸いなタイミングだった様で、私が広場に姿を現したのを見て取ると、壇上でそれまでスピーチをしていた男はにこりと笑い、私を紹介した。 「それでは、我々の企業を後援して頂く市長をご紹介します。大林公彦市長です」  弁が立つというのは、あらゆる場面で役に立つスキルだ。相手の機嫌を取り、権力の強い人間に対して嫌味にならない程度で最大限の持ち上げをして、味方につける。  渡世上手であるには、心の内を曝け出してはいけない。自分の感情や理論よりも、相手の機嫌と利潤が優先される。それは私を始めとした様々な人間にとってストレスに変わる事だろうが、特に私の様に技術支援・資金援助の貧しさに苦しんでいる技術者や研究者達の助力をしたいと考える人間にとっては苦難そのものだ。味方につく政治家は殆ど居ない。大多数の企業と同じく、自分達の利益にならない場合に自分達の金銭的不利益に目を瞑ってまで援助をしようとする人間が居ないからだ。  だが、それもむべなるかな。自分達の手で稼いだ金ではない、税金を徴収して利益を出した資金であるのだから、むざむざ直接的な利益を生み出さない事業への投資をしたくないという彼らの気持ちも無論理解出来る。国民の血税だから、という理由ではなく、血税だと主張して苦情を言う市民の声を恐れているだけの事ではあるが。     
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