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ひー君が私を洗脳している。
千智君は今確かに、そう言った。
自分の鼓動が、大きく身体に響いて聞こえるような気がして仕方がない。
怖いのだ。
千智君の次の言葉を聞く事に、身体が恐怖しているのだ。
「そんな、ひー君は普通の人で一般人で、洗脳なんてできる訳ないよ。」
きっと千智君の勘違いだ。
そうに違いない。
そうで…あって欲しい。
冷や汗が額に滲むのをハンカチで拭う。
「ブス、不細工、消えろ。そんな言葉ばかり幼い頃言われていたんじゃない?」
「え…どうして知ってるの?」
掘り返されたくない過去。思い出したくない記憶。
それ等を知らないはずの千智君から出た言葉に、酷く困惑する。
「調べて来たんだよ。ヒマちゃんにそう言ってた人間に直接会って話を聞いて来た。」
「そ、そんな…。」
また傷つく言葉を投げられる。
そう思うだけで痛みを訴える胸を強く押さえた。
「そしたら全員口を揃えて答えたんだ。“久遠氷雨にそう言えって命じられた”ってね。」
「え?」
千智君から告げられた内容は、とても現実離れした話に聞こえた。
「ヒマちゃんが容姿にコンプレックスを持つように、久遠氷雨が裏で手を引いて他の同級生に暴言を吐くよう命じてたんだよ。そしてヒマちゃんに友達ができないような環境を作って孤独にさせた。」
「ど、どうして。」
「そんなの簡単だよ。」
困惑で頭がぐちゃぐちゃになっている私に、肩を竦めた千智君が開口する。
「ヒマちゃんを自分の物にする為だよ。」
私は、そんな久遠氷雨なんて一ミリも知らない。
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