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彼が私を自分の物にしたいから孤立させた。
その事実を、すんなり呑み込む事も信じる事もできない。
だって私が知っている彼は、いつだって凄く優しいからだ。
「自分の劣等感を埋めてくれる相手に、人間は無意識に依存して信頼を置くようになるんだ。これは基本的な洗脳の手法だよ。」
「……。」
「つまりね、久遠氷雨は周囲にヒマちゃんを傷つけさせ、容姿に劣等感を抱くように仕向けて「可愛い。」「日鞠の事を僕だけは好きだよ。」って甘い言葉を利用して苦しむヒマちゃんの劣等感を全て肯定して自分に依存するように刷り込んでいたんだよ。」
そんなはずない。ひー君がそんな事する訳ない。
すぐにそう断言したかったのに、できなかったのは…少なくとも思い当たる節があったからだ。
「日鞠には僕だけだよ。」
「日鞠を愛しているのは僕独りなんだよ。」
「好きだよ、僕は日鞠を独りにはしないからね。」
「可愛いね、日鞠は。」
「ああ、日鞠が凄く綺麗で可笑しくなりそうだよ。」
私の心を蝕む劣等感を、いつだってひー君は満たしてくれていた。
そんなひー君に甘えて縋って、私が依存していたのは事実だ。
だけど、あの劣等感を埋めてくれた優しい言葉達は全部、計算だったの?
ねぇ、ひー君。全ては打算的に吐かれた言葉だったの?
室内はエアコンが効いてて、暑さとは無縁のはずなのに。
嫌に冷たい汗が、背筋のなぞるように流れた。
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