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困惑があきらかに大きくなっている。
頭の整理が追い付いていなかった。
「ヒマちゃんに友達ができそうになったら、毎回久遠氷雨が排除していたみたいだよ。ちゃんと証言も録って来た。」
「嘘…。」
「皆、あの男に怯えて中々口を割らなくてね、情報を集めるのに苦労したんだ。裏の仕事の情報を漁るより大変だったよ。」
「嘘だよ…。」
「ただ久遠氷雨の情報だけは全然出て来ないんだ。裏の世界でもこんなに埃が出ない人間なんて滅多にいない。恐らく久遠氷雨は普通の人間じゃないよ、ヒマちゃん。」
凛とした千智君の声が鼓膜を揺する。
耳を塞ぎたくなるような話に、困惑で頭が可笑しくなりそうだ。
こんなの嘘だ。
嘘に決まっている。
そう思いたいのに、千智君の顔は嘘も冗談も言っているようには見えない。
「ハァ…ハァ……どう…して…。」
呼吸が乱れ始めて、身体から力が抜ける。
ショックだった。
もし、千智君が告げた内容が真実ならば、それは私の心を抉り殺すも同然だ。
「人はね、酷い錯乱状態にある時に注がれる言葉にこそ洗脳されやすくて、依存しやすい生き物なんだ。」
追い打ちをかけるように、千智君の声が囁く。
嫌だ。
ひー君を信じたい。信じていたい。
だって、彼を失ってしまったら私には…。
「日鞠。」
文字通り錯乱状態に陥る私に届いたのは、ずっと口を閉ざしていた夜紘君の声だった。
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