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俺たちは天気がいいと、必ず屋上で昼食を食う。
こうしよう、って決めたわけじゃない。ただ気づいたらそうなっていた。
「ほら!行くよ~」
俺の横でそう言う、幼馴染のあかりは今日も馬鹿みたいに元気だ。
「お前は本当にいつも元気だよな。」
こう言うとお前はいつも照れたように、はにかむことを俺は知っている。
いつもの場所に腰をかけて、昼飯を取り出す。
「あー!今日おばさんのお稲荷さんだ!!いいなー!!」
キラキラと子供みたいな無邪気な笑顔で俺を見つめてくる。
「食うか?」
と言うと
「うん!!!」
と、また無邪気な笑顔で返してくる。
箸でお稲荷さんを掴みあかりの前に持っていく。
「ほら。」
少し驚いたような顔をしたが、すぐに口の中に目的の物を入れた。
「うまいか?」
と聞くとまたこいつは照れくさそうにはにかんで頷くんだ。
それからはまた、いつもみたいに話して、それで終わるはずだったんだ。
終わる、はずだったんだ…。
「あたしね、告白されたんだ。」
俺の横で下を向いてそういうあかり。俺はなるべく平静でいるように努めた。
「ねえ、」
「どうすればいいかな」
そう言って俺の方を見るあかりは、いつものはにかみとは違って、困ったように笑っていた。
「…別に、いいんじゃないの」
そう、俺は言った。必死で絞り出した声だと悟られないように、普通を装って。
しばらくあかりはなにも言わなかった。きっとそれは1分もない時間だったのだろうけど、俺には10分くらいにも長く感じた。
「…そっ、かぁ。…そうだよね」
この空白の時間を破ったのはあかりで、それはどこか自分に言い聞かせるようだった。
「じゃあ返事、してくるね」
そう言って俺を見て笑うあかりは、やっぱりはにかんでなくて、どこか困ったように笑っていた。
あかりがいなくなった1人の屋上はとても静かで、まるでこの世に俺しかいないように感じた。
ごめんな、あかり。止めたかった。引き止めてこの腕で抱きしめてやりたかった。
行くなって、言いたかった。
でも臆病な俺は、幼馴染という壁を乗り越えるのが怖かったんだ。
この壁を超えた先に見える何かが、俺はどうしようもなく怖かったんだ。
こんな臆病な俺は、君のそばにはいられない。
君は俺の自慢の幼馴染で、俺の初恋の人だから。
太陽のような温かさをもった君がいなくなった屋上は先程までの昼食日和とは打って変わって、どこか寒さを帯びていた。
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