1話 文化祭の憂鬱

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 そういえば昔、とあるRPGで一緒に遊んだとき、脱出すると二度と入れなくなるダンジョンに取り忘れたアイテムがあると知った香澄は、それは重要アイテムではないからスルーでも全然かまわないのに、「気になるから」とリセットしセーブポイントからやり直したりしていた。  目の前に他とはちょっと違ういかにもな宝箱があっても開けずにスルーしようとする千鶴とは大違いだ。  そんな香澄だから段取りの細かなことまで今決めてしまおうとするので俺は参ってしまった。係分けはどうするか、メニュー決めは、いつ買い出しに行こうかエトセトラエトセトラ。 「そんなのクラスの連中に相談しながらでないと」 「でも、ある程度こっちから提案しないとなかなか決まらないと思うんだよ」 「そりゃそうだけど、その場その場で考えればいいじゃん」 「そんなこと言って、うまくいかなかったらどうするの?」  その時はその時。何か失敗があったとしても経験として楽しめばいいのじゃなかろうか。どうも香澄は失敗するのが怖いようだ。気持ちはわかるのだが。  そんなこんなのやり取りを、帰宅して夕飯を食べ終わった後にもラインで続けていた俺は、また香澄から届いたメッセージを見てため息が出てしまう。 「それ、かすみん? え、かすみんと実行委員やるの!?」  背後から俺のスマホを覗きこんだ千鶴が背中にのしかかってくる。またおっぱい押し当てやがって。 「重い。あと人のスマホ覗くな」 「かすみんとそんなに仲良かった?」  ソファの俺の隣に座り直した千鶴はほっぺたを少し膨らませている。なんでだ? 「なんか香澄が一緒にやりたいって」 「はあ? 何それ」 「知るかよ」 「もう、それでなんで実行委員なんて引き受けちゃったの!」  はあ? おまえが最後の文化祭張り切れって言うから俺だってその気になったのになんだその言い草は。イラっとして千鶴を押しのけ立ち上がる。 「こうちゃん。まだ話は終わってない」 「うっせ」  そのままリビングを出る。後ろから「こうちゃ~ん」なんて情けない声が聞こえたが、もう知らん。千鶴のばかちんが。  コンビとしては何かとでこぼこな俺と香澄だったが、クラスの連中が協力的なこともあってどうにかこうにか実行委員の役目を推進できてはいた。  進み始めればあれもこれもと慌しく目まぐるしく校内を駆け回る毎日の中、俺はとあることに気がついた。
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