1話 文化祭の憂鬱

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 だが、どうにもきな臭さを感じてしまった俺は、気配を殺して室内からの声に耳を澄ませた。 「村元くん、ちゃんと見張ってた? ふたりのこと」 「見張ってましたよー。ふたりだけのときには紘一を呼び出して邪魔してやりましたし」 「ほんとにぃ? 前より仲良くなっちゃってるんだけど」 「つっても、オレだって忙しくてずーっと張り付いてるわけにも……」 「それは人を使えばすむ話でしょう」 「オモイツカナカッター」 「弱味をつついて顎で使える子分のひとりやふたりいるでしょう?」 「いやオレ、大事な仕事は人に任せられないタチなんで」 「もうっ。もっと徹底的に邪魔してほしいの! こうちゃんとかすみんが仲良くならないように!」  ちいぃづうるうぅぅー。何しとんじゃオマエは!!  勢いよく引き戸を開けると、ふたりはぴたっと話を止め俺の方を見て驚いた顔になった。が、千鶴も村元もすぐにさっとポーカーフェイスになる。くっそ、なんだよその余裕は。気に入らねえ。 「今の話なんだ?」  村元は目線をあらぬ方へと流し、千鶴はじっと俺を見ている。それで俺も村元は放っておいて千鶴に詰め寄った。 「おかしいと思った。俺ばかり呼び出されるから。俺と香澄が仲良くならないようにってなんだよ」 「そのまんまの意味だよ」  それなりに凄みを利かせた低い声を出してるつもりなのに千鶴は怯みやしない。憎たらしいくらい落ち着いたしゃべり方で続けて言った。 「私はこうちゃんに香澄ちゃんと仲良くしてもらいたくないの」 「なんで」 「なんででも」 「だったら俺に直接言えばいいだろ。村元にこんなくだらないことさせて。こんな、ガキみたいな」 「そうだね。言われたってこうちゃんはこんな子どもみたいなことしないでしょ。言われたからってかすみんを避けたりしないでしょ。こうちゃんに言ってもしょうがないから近くにいる人に頼んだんだよ」  それが何か? という感じのしれっとした口振りで千鶴は淡々と話す。 「意味わかんねえ。なんで? どうして俺が香澄と仲良くしたら駄目なんだよ」 「私が嫌だから」 「おまえ、いい加減にしろ!」 「紘一、お姉さんに向かってそういう言い方は」  村元に口出しされ、俺は余計に腹が立つ。ガキっぽいとかはもう関係なくて、俺がこんなに怒ってるのに涼しい顔をしている千鶴が憎たらしい。
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