1話 文化祭の憂鬱

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「こうちゃん、ここでお別れだね」 「おら、早く行け。バス出ちまうぞ」 「寂しいよう」 「今日は何時に帰ってくんだよ」 「かてきょもないし夕方には家にいるよ」 「久々にモノポリーやるか?」 「お、やろうやろう。こうちゃんを破滅させてやるんだから」 「破産だろ」  怖いこと言うなよ。思いつつも約束をしたことで機嫌が良くなった俺は、線路沿いの車通りの少ない道を東へ向かう。ここからひたすら二十分ほど自転車を走らせ千鶴も通った県立高校に登校する。  朝日がまぶしくて目を細める。住宅街の角で自転車を止めて俺を待っている人影がある。 「紘一くん、おはよ」 「おう」  スピードをゆるめず挨拶を返す俺に、香澄はにこりと笑って自転車を漕ぎだし後についてきた。 「紘一くん! 数学の予習やった? 演習の」 「やったぞ」 「全部解けた?」 「なんとか」 「やった。わたし今日あたるかもしれないんだよ。問7がわからなくてさ。写させて! お願い」 「なんだよ、それで俺を待ってたのかよ」 「えへへ」 「あれ、6組のが先に進んでんだろ。6組の誰かに見せてもらえよ。俺、合ってるか自信ねーもん」 「それならそれでいいから。紘一くんの方が頼みやすいんだもん」 「あのなあ」 「お昼にコーヒー牛乳おごるから。お願い」 「しゃーねーなあ」  香澄はまたえへへと笑って俺と同じように朝日に目を細めた。  小学生の頃、俺のクラスに転校してきた香澄とはその後も同じクラスになることが多く母親同士も仲が良いから顔を合わせることが多かった。  とはいえ、男の俺とは話は合わないし、同性でもみっつ学年が違う千鶴とも微妙に合わない(小学生の三学年差はそれだけでかい)。  それでも頻繁に学校の外でもやたらと会っていたときもあれば、疎遠になった時期もある。同じ高校を受験し入学したときにも母親同士は「同じ高校で安心だね」などと井戸端会議で話していたが、俺と香澄はだからといって仲良くするわけでもなく。  だけどなぜか高校三年生になった今になって、こうしてたまに一緒に登校したりする。これはこれで腐れ縁というやつなのかもしれない。悪い意味でいうようなドロドロした関係になったことはないけれど。 「紘一ぃ、千鶴先輩に話してくれたかあ?」  昼休み、教室の窓辺でコーヒー牛乳を飲んでいる俺のところに隣のクラスの村元が来た。
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