1話 文化祭の憂鬱

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「もお、こうちゃんのやきもち焼き屋さん」  なんだその早口言葉みたいな言い方は。 「だいじょーぶ。お姉ちゃんはこうちゃんだけのおねえちゃんだからね」  立ち上がってデスクチェアに座る俺の頭を片腕でぎゅっとする。パジャマの胸元はヤバいくらいに柔らかい。 「おいバカ、垂れる」 「おっとっと」  千鶴はカップとスプーンを持ち直してぽすんとベッドに戻った。 「それでね。文化祭今年も行こうかなって」 「それはもう聞いた」 「やっぱさ、好きなんだよね、文化祭。楽しいもん」  カップを回してきれいにアイスを掬いながら千鶴はほにょんと笑った。 「学校でいちばんのイベントだし、普段は勉強勉強のみんながさ、ここぞとばかりにはっちゃけて大真面目にふざけちゃう感じ。文化祭だけじゃん、そういうの」 「まーな」 「こうちゃんもさ、最後なんだし、はっちゃけておいたら?」 「そういうキャラじゃねーし」 「そんなことないよぉ」  千鶴はスプーンを口にくわえたまま空になったアイスのカップを潰す。ナチュラルに俺の部屋のゴミ箱に捨てようとするから「臭うからやめろ」と怒ってやると「へーんだ」なんてみょうちきりんな捨て台詞を残し俺の部屋を出ていった。  実行委員をやってもいいと返事をすると、香澄は満面の笑顔で喜んだ。なんで俺と委員をやることがそんなに嬉しいのかわからない。一応、付き合いが長いとも言えるし気心が知れてる、他の野郎と組むより気は楽なんだろうけど。  やるとなったら事前の準備が大切だ。週末を待たずに俺と香澄はクラスの連中に実行委員に立候補することを告げて内定を取り付けた。 「まさかおまえが実行委員やるとはな」  昼休み、いつものように隣のクラスからやって来た村元が意外そうに眉を上げる。 「ところで、千鶴先輩に話してくれたか」 「……ああ。今年も来るって」 「やっったああああ。エイドリアーン!!」  ええい。抱き着くな暑苦しい。もがく俺をものともせずぽんぽんと俺の背中を叩いた村元はにんまりと笑う。 「千鶴先輩が来るから、おまえ、はりきっちゃったわけ? 最後の文化祭だしな」 「うっせ」  腹パンしてやると村元は笑いながら(Mか)俺から離れた。 「紘一は実はデキる子だから心強いや。腐ってもあの千鶴先輩の弟だもんな」  ほんとの弟じゃねーけど! 思いっきり悪態をついてやりたいのを堪えて村元の背中を見送る。
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