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星は驚きながらも、咄嗟に壁際に背中を付けてそれをやり過ごす。
その後、再び外へ向けて勢い良く走り出した星の行く手から、女の子が調度良くドアから中に入ってきた。
「いっ……あう~」
「いった~い。なに?」
2人は勢い良くぶつかると、お互いにその場に尻もちをついてぶつけた場所を押さえていた。
星が前を向き直すと、女の子は不思議そうに星の方を見つめている。何故かは分からないものの、どうやら彼女には自分の姿が見えているらしい……。
それを見て「しまった」と思い。星は慌てて両手で自分の口を塞いだ。
女の子は不思議そうに首を傾げながら、星のことを見つめている。
「どうしたんだい? 急に転んで」
「ううん。何でもない!」
男性のその言葉に女の子は首を横に振って、徐ろに立ち上がった。
星はバレていないことが分かり、ほっと胸を撫で下ろした。
「月。悪いけど玄関の鍵を締めておいてくれるかい?」
「は~い」
女の子は元気に返事をすると、玄関のドアを閉め鍵を掛けた。
(あっ、閉められちゃった。どうしよう……)
青ざめた顔で閉じられたドアを見つめる星。
しばらくその場にぺたんと座り込み。思考を巡らせていると、1つの解決策が浮かんだ。
(そうだ――自分で開ければ良いんだ!)
そう思いついたと同時に、星の右手はドアノブに向かって伸びていた。
星の手がドアノブを掴もうとした瞬間。すっとそこにあったはずのドアノブが姿を消す。
星はそれを見て慌てて目を擦って、もう一度ドアノブを確認する。しかし、そこにはしっかりとドアノブが付いている。
「おかしいなぁ……」
星は首を傾げながらそう呟くと、再びドアノブに手を伸ばす。
だが、結果は同じで、またそこにあるはずのドアノブはすっと姿を消す。
もちろん。ただ透明になったわけではなく、完全に姿が消えているのだ。
(ここが、私の夢の中の世界なら……)
星はその場で少し考え込む。
(夢……幻――幻を現実にする方法は……強く念じればいいんだ!)
目を閉じて心の中でドアノブが掴めますようにっと念じて、神妙な面持ちでドアノブに向かって手を伸ばした。
すると、今度はギリギリまでいっても消える気配がない。
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