理想と現実

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             * * *  今から6年前。カレンがまだ孤児院に居た時の話だ――。  マスターの行った頃は、カレンは人との関わりを持とうとしていない孤立した子供だった。  だが、そんなカレンにも仲のいい友達がいた。    「かれん。私夢があるの」 「夢?」 「うん。大きくなったらパン屋さんになってパンを皆にお腹いっぱい食べさせてあげるの」  少女は方ほどの黒い長髪を揺らしながらカレンに向かって微笑んだ。 「あいがするなら私も一緒にパン屋さんやるよ!」 「うん! なら、2人でここにいる皆をお腹いっぱいにしようね!」  そう言って2人はしっかりと手を握ると微笑み合った。  しかし、そんな平和な日常はそう長くは続かなかった。それは外国の高官が表敬訪問で孤児院を見に来た時のことだ。  その時、人当たり良く誰にでも別け隔てなく接する愛が施設の案内役に抜擢された。    その時の丁寧に対応した愛のことをえらく気に入った高官が、愛を養子にしたいと持ちかけてきたらしい。  最初は嫌がっていた愛を、大人達は両国の交友の為にもと必死で説得した。  しかし、それは彼女の意思を尊重したというのは表向きのことで、その時にはもう飛行機のチケットも移住の手続きも全て終わっていた。  おそらく。物分かりの良い愛はそのことを大人達から聞いて、仕方なく首を縦に振ったのだ――それは愛が旅立つ数日前にカレンが聞いた話だった。  カレンと愛の2人は孤児院の近くの公園のブランコに乗りながら話をしていた。 「私。もうすぐこの孤児院の子じゃなくなるの……」 「……えっ? あい。今、なんて言ったの?」 「だから、かれんとも後少ししか遊べないの……ごめんね?」  愛はそう言うと困惑した表情で自分を見ているカレンににっこりと微笑んだ。
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