理想と現実

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 しかし、物心ついた時から毎日一緒に居たカレンにとって、その笑顔が偽りであることは言わなくても分かっていた。  カレンは微笑んでいる愛に向かって感情を露わにする。 「どうして!? あいは本当は行きたくないんでしょ? ここに居たいんでしょ? なら、ことわればいいじゃん! もし一人で言えないなら私が一緒に……」 「……だめだよ、かれん。それじゃ皆困っちゃうもん。それに私が行くところの人もいい人だし、ここよりもきっと……」  そう言おうとした愛に向かって、震えながらカレンが再び声を上げた。 「ここよりきっと何? ここが私達の家でしょ。私もあいも他の皆も家族なんだよ。私達は親も居ない。親戚も居ない。家族は施設の皆なんだよ? それにあいは私とパン屋さんになって皆をお腹いっぱいにするって夢があったじゃない。それを忘れちゃったの!?」  カレンの感情を表に出した強い言葉にあいは俯いたまま唇を噛み締めている。  次の瞬間。愛は徐ろに口を開いた。 「――かれん。私もかれんやここの皆の事が大好き――だから、行くんだ。本当は誰にも言うなって口止めされてたけど、かれんだけに言うね?」 「うん」  カレンは愛のその決意に満ちた表情に無言のまま頷いた。 「実はこの話はもうずっと前から決まってて、私も昨日聞いたの……それにね。私が行くところのお父さんとお母さんは他の国の偉い人なんだって――だから、私は皆の為に、私達みたいな子を少しでも減らせるように偉くなって皆が本当のお父さんとお母さんと暮らせるようにしたいの」 「あい……」  カレンはその親友の言葉にただ呆然と彼女の顔を見つめていた。 「だから、ねっ? かれん。それが終わったら一緒にパン屋さんをやろうね♪」  愛はそんなカレンの耳元でそうささやくとにっこりと微笑んだ。 (あいは大人だな……それなのに私は、あいを困らせてばかりで……)  カレンはそんな愛の姿を見て抑えられない感情から涙が止まらなく溢れてくるのを感じた。カレンは俯いたまま「ごめん」っと何度も繰り返し泣いた。  それから数日後。愛は旅立って行った。カレンはその最後の見送りの時には顔を見せなかった。
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