名御屋までの道中

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 マスター達が助けを呼ぶ声の方へと徐々に近付いていく。  すると、視界に入ってきたのは初期装備の革鎧を着けた少女が崖を背に、5人の重装備をした男達に囲まれ震えている姿だった。  しかし、マスターとメルディウスは林の影に身を隠して、すぐには助けようとはせず、彼等の様子を注意深く観察し始めた。  それは、未だに罠であるという可能性を捨て切れないからに他ならない――。  男達に囲まれていた間も少女は声を大にして「誰か助けて!」と叫び続けていた。  その直後、彼女の顔の横の岩肌に男の拳が突き刺さる。 「さっきからどんなに叫んだって無駄だって言ってんだろ? 往生際の悪い女だな……」  鎧を着たスキンヘッドの男が不機嫌そうに言い放つと、その隣に居る男達も口を開く。 「そうだぜ。今のこの世界に、お前みたいな雑魚プレイヤーを助けてくれるお人好しなんて誰もいねぇーよ!」  緑色の鎧を着た黒髪の男が、恐怖で涙を瞳に溜めて怯えている少女の耳元で強い口調で言った。 「どうせ身体だってデータの集合体だろ? 俺達と楽しめばいいじゃん。可愛がってやるからさ」  鎧を着た茶髪のロングヘアーの男が、下心を露わにして不気味に笑う。  そんな男を少女は、嫌悪感に満ちた瞳で見た。彼等は全員が重そうな重鎧を身に纏っている。  このフリーダムで1番の防御力を誇る重鎧を身に着けていながら、初期装備の革鎧のか弱い少女を囲んでいる姿は、とても見ていて気持ちのいいものではない。  最近は助けがくるかも分からないゲームの中に閉じ込められ心が荒んだ者達が、こうした女性の初心者プレイヤーを狙う事件が急増している。  大半が女性プレイヤーの体目当てに近付いてきた者達で、数人で1人を襲うのが通例となっていた。  それは男としてではなく生物の雄としての欲求を満たす為、数少ない女性プレイヤーをなるべく多くの者達で喰い荒らす為に行われる非道な行いだ。  運営が機能していれば、こう言った犯罪に近い行為にはアカウント削除処分となり。関連の企業、主にゲーム運営会社で今後一切の利用ができなくなるのだが、今はそこが機能していない為、やりたい放題と言うわけだ――。  男達は皆、薄気味悪い笑みを浮かべている。  少女も自分がこれからどうなるのかを悟っているのか、今にも泣き出しそうな表情で助けを求めるように辺りを頻りに見渡した。  しかし、男達の言う通り。日も落ち始めているこの時間の森の中では、人など歩いているはずもない。  現実を受け入れ始めた彼女の顔には絶望の色が濃くなっていく。  おそらく。少女は『こんなはずじゃなかったのに……』と心の中で思っていることだろう。その瞳には、後悔の念を感じる悲壮感で溢れていた。  最初は軽い気持ちで狩りに誘われ、彼等も感じが良さそうだったので、彼女は男達のパーティーに入ったのだろう。だが、それが全ての間違いだったのだ……。
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