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そして満面の笑みで振り返り、その味噌汁をメルディウスに差し出す。
「どうぞ! ギルマスのは特別なのを差し上げます!」
その器の中身を見たメルディウスとマスターは言葉を失う。
何故なら、先程まで鮮やかな紫色をしていたはずの味噌汁が、ブクブクと泡を立てているドス黒い赤紫色に奇跡的な変貌を遂げていたからである。
どうやればあの短期間の間に、これほどの変化が生まれるのか理解に苦しむが。
メルディウスは「お、おう」とその器を受け取ると、脂汗を掻きながらその器の中を覗き込んでいる。
2人が呆然と味噌汁を見つめていると、近くから小虎の抗議する声が耳に入ってきた。
「――白雪さん。こんなの食べれる訳ないじゃん! これ食べ物の色をしてないんだけど!」
「……ほう。小虎はこれが食べれないと……?」
器を突き出して不満を口をする小虎に、白雪が殺意を含んだ声で尋ねる。
だが、全く動じることなく。小虎は自信満々に「とうぜ――」と口にしたところで、白雪の姿が一瞬消えたかと思うと、突如として小虎はその場にバタッと倒れた。
小虎の持っていた器がカランカランと音を立てて地面に落ち、中身の紫色の物体が地面にぶち撒かれる。
器に入ったままでも毒々しいのに、地面にぶち撒かれた紫色の液体からは絶え間なく湯気が上がり、まるで小さな魔界の沼の様にも思えた。
白雪は何事もなかったかのように鍋の前に戻ると、にっこりと微笑んで言った。
「あらあら、小虎も随分と疲れていたようです。後でしょぶん……テントまで運んで行かないといけませんね」
目の前で起きた衝撃的な光景を呆然と見つめていたメルディウス、マスター、少女はシンクロした様に同じことを考えていた。
『食べても食べなくても結末は同じ!?』
3人は手の中の器と倒れている小虎に目を向けると、恐る恐る白雪の方を向き直した。
「どうぞ召し上がれ♪」
笑顔でそう告げる白雪を見て、3人は互いの顔を見合うと、覚悟を決めたように器に口を付け一気に汁をすする。
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